ツムグログ ~ご縁を紡ぐ 人事の日々ログ~

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仕事さえ出来ればすべてOK?独りよがりのスーパースター

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「何で課長の案が選ばれるんですか!明らかに僕の案の方が良かったはずです!」

「それは、今のお前がそういう人間だからだよ。」

 

……信じられなかった。

 

でもこの経験がなければ、僕は今も独りよがりで感じの悪い奴だっただろう。

 

〈3ヶ月前〉

来期から始まる新規事業プロジェクト、社長から全部署の幹部にアイデア出しをするように通達が発信された。僕はめちゃめちゃ気合が入っていた。

 

「本プロジェクトは社長直下で進められ、アイデアを採用された者が社歴に関係なくプロジェクトリーダーに抜擢される。」

通達にそう明記されていたからだ。

 

大学を卒業し、新卒入社した地元大手のイベント会社。

正直やっている事業には興味はなかったが、マーケティングに興味があり、その部署がなかったこと、新卒入社組は成果を挙げた人にポジションを与える方針だったこと、そして会社が潰れなさそうだったこと。

そんな安易な理由で入社を決め、約2年の現場経験を経て、本社へ。

総務部所属で少しずつマーケの仕事もするようになっていた僕についた上司は田中課長。
社長のイエスマンで新しい提案をするわけでもない、マーケティングの知識もない、何を教えてくれるわけでもない。

 

僕はこの上司のことが正直嫌いだった。

 

自分の意志をどんどん発信して成果を上げ、出世して稼ぎ、思いっきり遊ぶ。

これが当時思い描いていたビジネスマン像だったのだが(今思えば恥ずかしすぎる)、自分の上司が完全に真逆だったのにショックを受け、「この人のようには絶対にならない」と心に決めていた。

 

いつも上司に反目し、直接社長へ自身の案を提案しに行き、社長から認めてもらって進める。そんな仕事の仕方をしていた僕だったが、20代半ばでマーケ部署を立ち上げ主任職を拝命。

自身の方針通りに部下を動かし、これまでよりも大きな企画を実現。

異例の昇格スピードだったが、全ては自分の意志を通して成果を上げたからだと自負していた。

 

やっと課長の背中が見えてきた。

そんなタイミングで発信された新規事業コンペ。

各部署の課長クラスは参加必須のため、上司である田中課長も参加することに。

 

「ここで勝てば、全社プロジェクトのリーダーになれる」

 

出世したい、同じ土俵で課長を負かしたい、そんな気持ちをモチベーションに変え、僕は連日深夜までプレゼン資料の制作に打ち込んだ。

当時注目されつつあった「CSR」(企業の社会的責任)と広報活動を掛け合わせたブランディング提案。社内ではこれまでなかった視点の企画だった。

課長の様子も時折うかがっていたが、コンペへ向けて動いているようには見えない。

 

「どうせあの人のことだから、社長に言われたから仕方なくやってるんだろうな。」

他の部署の課長クラスもやる気があるようには見えず、自由参加でエントリーしたのは僕だけ。

 

「これは……勝ったな。」

コンペを明日に控えた夜、僕は自分の案が採用されることを確信していた。

 

〈コンペ当日〉

午後2時。

社長室に全部署の課長と僕が呼ばれ、新規事業コンペがスタート。

予想通り、これまで社内でやっていたことの焼き直しのようなプレゼンが続く。

僕は最後から二番目、最後が田中課長だった。

 

6人のプレゼンが終わり、いよいよ自分の番。

この日の為に用意した15ページのプレゼン資料。

パワーポイントでデータを示し、他社事例を画像で紹介した。

質疑応答ではこれまでのプレゼンで沈黙を守っていた社長・専務からそれぞれ質問を頂き、明確に回答出来た。

 

完璧だった。

 

あとは田中課長のプレゼンのみ。

どんな資料を用意しているのか。

 

「え……これって……」

 

参加者に配布されたのは文字のみ・A4サイズ1枚の簡潔な資料。

プロジェクトの仮名・目的・大枠の内容・完了時期のみが記載され、詳細は企画採用後に検討、というものだった。

しかも、新規事業のプレゼンなのにも関わらず、彼が提示したテーマは「新しい理念の策定について」。

説明も簡潔、数分で終了。

 

「課題の意図を掴むことすらできないのか、この人は……」

 

僕は呆れを通り越して、なぜこんな人を相手に必死になっていたのか馬鹿らしくなった。

「企画採用者の発表は1週間後に発行される社内報にて」

専務から今後についての連絡があり、コンペは幕を閉じた。

 

〈1週間後〉

「そんな!!そんな馬鹿な!!!」

朝一、デスクに配付されていた社内報を見て僕は思わず声を荒げた。

 

「創業50年記念新規事業プレゼンコンテスト 
 最優秀企画賞 ~新規理念策定プロジェクト~ 田中総務課長 」

 

信じられない。何かの間違いだ。

 

パニックになった僕はすぐに専務室に駆け込んだ。

「何で!何で課長の案が選ばれるんですか!明らかに僕の案の方が良かったはずです!」

飛び込むなり大きな声を出す僕を見て、驚く専務。

 

僕は続けた。

「資料のボリュームも、新規事業という視点も、プレゼンの内容も、すべて僕の方が優れていたはずです!質疑応答も僕にだけしてくれたじゃないですか!課長の案は事業じゃなく、ただの社内企画で課題のテーマにも沿ってない。なぜですか!」

まくしたてる僕に椅子にかけるよう目で促す専務。

「お前、なんで自分が選ばれなかったのか、まだわからないのか。」

向かいに腰を掛けた専務は悲しそうな顔で深いため息をついた。

 

「それは、今のお前がそういう人間だからだよ。」

 

何を言われているのかわからない。

理解が出来なかった。

 

「お前は自分の事しか考えていない。何のために、誰のために仕事をするのか。誰のおかげで今の立場、環境を手に入れ、仕事が円滑に進んでいるのか。感謝の念もなければ、誰も信頼していない。そして今もなお、機会をくれた人たちの顔に泥を塗り続けている。」

 

専務は続けた。

「田中課長の案が選ばれた理由。それはひとつだけだよ。お前より信頼できるから。新規事業だとかプレゼンの精度だとかなんてどうでもいい。あいつはウチが創業50年を迎えることに着目し、今一度みんなの心をひとつにしたい、その為に理念を創るべきだと主張した。会社の発展の為に、みんなの為に。そういう想いさ。」

 

確かに、自分を振り返ると仕事をする目的は「出世と稼ぐ」ことだけだった。

部下も自分の都合で駒のように動かしていた。

 

「何を言ったかじゃなく、誰が言ったか。人の心はそこで動く。仕事はひとりじゃできないんだ、信頼を紡がないと。お前は確かに仕事は出来るよ、でもそれだけだ。個人としてはスーパースターかもしれないけどな。信頼できない奴に大きな仕事は任せられない。」

 

僕は、泣いていた。

恥も外聞も捨て、声を上げて、泣きじゃくった。

 

今までの自分のすべてが崩れたような気がした。

 

〈コンペから1ヶ月後〉

田中課長企画の新規理念策定プロジェクト。

僕はそのプロジェクトのリーダーに抜擢された。

課長がリーダーとして僕を推薦してくれたからだった。

理由は「自分にはない感性があり、これからのこの会社を背負っていく世代だから」。

自分がリーダーになれた企画を、会社の未来のために僕に託したのだった。

ここから1年半をかけ、新たな企業理念が誕生することとなる。

 

どうしても皆に伝えたくて、文字に残したくて、理念に盛り込んだことがあった。

 

相手の立場に立ち、自分に指をさし、謙虚に。
何を言ったか、ではなく、誰が言ったか、が人の心を動かす。

 

このことを機に僕のマネジメントは変わった。

 

チームの目指す方向性をメンバーみんなで定め、意見を聞き、チャンスを提供する。

ミスがあれば自分が責任を取り、次はどうすればいいかを寄り添って考える。

 

決して驕らず、独りよがりにならず。

信頼を、紡いでいこう。

 

※本ストーリーは筆者の20代の経験を基に、設定等を一部変更したフィクションです。

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